20代は死ぬことばかり

やさしい本である。

まるで小学生が書いたように、

理屈がないところがいい。

実感をもとに書いている。だから嘘がない。

「人は、人を浴びて人になる」

 

著者は精神科医で医学博士・夏苅郁子さん。

 

母親が重い精神疾患の患者、

自分自身も長い間、精神疾患の患者、

自殺未遂、リストカット摂食障害、アルコールや睡眠薬依存。

 

患者の家族であり、当事者であり、かつ精神科医という

三つの立場を同時にもつ人が著者。

 

精神疾患からの立ち直りの体験を書いている。

「障害をもつことは不幸ではない、

障害を持っても豊かに生きていける」という著者の実感。

 

「自殺と殺人は紙一重

青年期の実感だという。

死がつきまとう20代という。

 

私は、死刑廃止活動をしている頃、死刑囚の本をよく読んだ。

殺人は、まさに、自殺だと感じることが多かった。

私の感想を、実感として体験した人だ。

 

もし、彼女の病が癒えることがなかったら、

あるいは、殺人や自殺の恐れも。

父や母を殺す殺人。

 

こういう人でも、生きられるものなのか。

生きるだけでない、幸せになれるものだろうか。

多くの病に苦しむ人たちを元気づける優れた医師になれるものだろうか。

 

著者はそれらを見事に成し遂げている。

その実感を書いている。

理屈がないのが、最高にいい。

こころの病についての説教がないのがいい。

そのままで受け止めている。